クトゥルフ神話の基本

現代において、直接クトゥルフ神話に触れる機会は、TRPGを入口としていることが多いでしょう。 実は、クトゥルフ神話は様々な作品に隠されていたり、モチーフにされていたりするのですが、それらについて、クトゥルフ神話に触れたことのない人が気付くことは少ないので、やはり入口になるのはTRPGなのではないかと私は思います。

そんなクトゥルフ神話ですが、初心者が入門しようとすると、情報量が多く、非常にハードルが高いと感じるでしょう。

この記事は、その高いハードルをグッと下げるような目的で書いています。クトゥルフ神話の概要を把握するための解説です。 それでは、クトゥルフ神話の基本を見ていきましょう。

TRPGにおけるクトゥルフ神話については、以下の記事をご参照ください。

原作者と布教者

H・P・ラヴクラフト

クトゥルフ神話を語るうえで外すことのできない存在、クトゥルフ神話の世界を生み出した「H・P・ラヴクラフト」です。

1890年のアメリカ、プロヴィデンスに生まれたラヴクラフトは、1919年に発表した「ダゴン」を皮切りに、のちにクトゥルフ神話と呼ばれる小説を発表していきます。生涯を通しての作品数は多いとは言えませんが、ラヴクラフトは、作家仲間やファンとの文通に多くの時間を割き、そうした交流の中でもクトゥルフ神話の世界観を発展させていきました。

ラヴクラフトの、小説間で世界観を共有する書き方を面白がった他の作家仲間達も、クトゥルフ神話の世界観を共有する小説を書いていきました。そして、ラヴクラフト自身も、他の作家の書いた世界観を取り入れたりしながら新たな小説を書いていきました。

つまり、現在のクトゥルフ神話というのは、ラヴクラフトが生み出した世界観を共有して、様々な作家が作品を書いている作品群だと言えるでしょう。

また、ラヴクラフトは他の作家の書いた文章の添削なども行っており、これもクトゥルフ神話の世界観を共有する手段の一つになったことでしょう。

オーガスト・ダーレス

クトゥルフ神話を語る上で、重要な人物がもう一人います。「オーガスト・ダーレス」です。ダーレスは、ラヴクラフトの作家仲間の一人で、ラヴクラフトの死後にクトゥルフ神話の布教に力を注ぎました。

様々な作家が、ラヴクラフトの世界観を共有しながら小説を書いていましたが、言ってしまえば「内輪ネタ」の域を出ていませんでした。このままでは、ラヴクラフトの作品は後世に残らないと考えたダーレスは、これら各小説を「クトゥルフ神話」としてまとめ上げ、ラヴクラフトの作品を広めるために出版社「アーカム・ハウス」を設立。ラヴクラフトが未発表だった小説も含めて、数々の小説を出版していきました。

現在でも私たちがクトゥルフ神話に触れることが出来るのは、ダーレスの努力の甲斐があってのことでしょう。

ラヴクラフトの描く恐怖

宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)

ラヴクラフトは自身の小説を「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」という概念で説明していました。

これはラヴクラフト自身の恐怖や不安、孤独感を根源にしているもので、「広大で無機質な宇宙は人智を凌駕し、意思疎通も理解も出来ない絶対的な存在であり、それらの前では人類の価値観になど、なんの価値もない。」という恐怖を示しています。

こうした宇宙をテーマ扱っていた理由の一つに、ラヴクラフトが科学や天文学に強い関心を持っていたことが関係しています。

悪夢

ラヴクラフトは子供の頃に、たびたび悪夢を見ており、作品はそういった悪夢の潜在意識にある恐怖を描いていたりもします。

悪夢に登場する怪物をラヴクラフトは「ナイトゴーント」と名付け、彼自身の小説内にも登場させました。ただ、科学に関心を持つようになってからは、悪夢を見ることは無くなったようです。

海や混血

クトゥルフ神話に出てくる絶対的存在(神話生物)は、海の生き物をモチーフにした造形のものが多く登場します。

これは、ラヴクラフトが海産物に対して恐怖を抱いていたことが根源となっていて、クトゥルフ神話の代表格とも言える「クトゥルフ」も、タコのようと例えられるような造形をしています。

また、ラヴクラフトは現代においては人種差別と言えるほどに非白人に対して恐怖を覚えていたようで、混血に対して嫌悪感を抱いていたと思われます。そのため、クトゥルフ神話の中では、「人ならざる者との混血」というモチーフがたびたび登場します。

クトゥルフ神話の舞台や時代

時代背景

ラヴクラフトの作品に出てくる舞台の多くは、ラヴクラフトの愛した故郷「プロヴィデンス」や、プロヴィデンスにほど近い、マサチューセッツ州にあるとされる架空の都市「アーカム」です。アーカムには、これまた架空の大学「ミスカトニック大学」があるとされています。

時代はラヴクラフトが小説を書いていた時代である1920年代頃の物語が多く、当時のアメリカでは禁酒法が施行されていた時代になります。

禁酒法の時代は、アメリカの治安が良くなかった時期でもあり、そういった時代背景を把握した上で楽しむと、また違った一面が見えてきます。

例えば、ラヴクラフトの小説には時々、「真実を知っている飲んだくれ」が出てきます。これは、禁酒法の時代に法を破って質の悪い酒を飲んでいるような人物だったり、お酒が手に入らない時代なので、お酒を譲ることで真実を話してくれたりするなどの行動をします。時代背景を知っていればこそ分かる登場人物ですね。

天文学の背景

当時の天文学は、当然現代ほど発達していませんでした。時代としては、アインシュタインが一般相対性理論を発表した頃に重なります。また、ハッブルという天文学者が宇宙が膨張しているという説を発表した時期でもあります。

天体の観測は、望遠鏡を覗いての観測から、ようやく写真を利用して観測するようになった時代です。電波での観測が始まるか始まらないかぐらいの時代なので、天体についての詳細な研究はまだ始まっていなかったと思われます。

そういった時代の天文学を基礎として宇宙的恐怖を描いていると捉えれば、ラヴクラフトが描いている世界観が見えてきます。

クトゥルフ神話の世界観

前置き

ここまで、クトゥルフ神話の内容についてはあまり触れずに解説をしてきました。それは、内容に触れると話がどんどん複雑になっていくためです。

しかし、クトゥルフ神話の基本について解説する中で、内容に触れないわけにはいかないため、ここからは内容について触れていきます。

ただ、あくまで概要を記載しますので、詳細を知りたい方は、各項目の詳しい内容を記載した記事をご覧ください。

神話生物

クトゥルフ神話の重要な要素として、神話生物の存在があります。言ってしまえば架空の神々のことです。(実在の神とは何か?という疑問は飲み込んでください。)

様々な神話生物が存在するため、個々の神話生物についての解説は別の記事をご覧ください。

また、作家によって神話生物の設定が異なっている場合もありますが、これは「神々の事を人間程度では完全に理解できないせいである。」という説明で納得ができます。

そういった様々な作家の各小説に出てくる神々を、ラヴクラフトの死後にダーレスが体系的にまとめました。

ただ、ここでひとつ問題が生じました。ラヴクラフトの描く神々は、人類には到底理解できないような存在として描かれているにも関わらず、神々を分類してしまっているという矛盾です。そのため、ダーレスが整理する前と後では神々の世界観に少々違いが生じているという点に注意する必要があります。

有名どころでは、神々の四大元素属性(火・水・大地・大気)や、神々の対立構造など、ダーレスが神々を整理する際に導入した概念となります。

個人的には、ダーレスによる神々の整理は、ある意味で創作の自由度が減ってしまう理由になるので、あまり気にしないのが良いのではないかと考えています。そして、神々同士の仲間関係などを考え始めると理解が難しくなるため、まずは個々の神々は基本的に独立した存在だと捉えておくのが良いと思います。(例外はいますが。)

土地

クトゥルフ神話の世界観の中で、架空の土地が出てきます。前述しましたが、「アーカム」という街や「ミスカトニック大学」など、クトゥルフ神話内で登場する土地・名称があります。

こちらも多数存在するので、個々の項目については割愛しますが、押さえておきたい有名どころをいくつか紹介します。

  • アーカム:マサチューセッツ州にあるとされる架空の都市。
  • ミスカトニック大学:アーカムにあるとされる架空の大学。付属の図書館には、後述のクトゥルフ神話に関わる書物を所蔵していたり、探検に行った教授が神話生物に出会ったりと、何かと普通じゃない大学。
  • 幻夢境(ドリームランド):人間が到達することは困難な異世界。神話生物がたくさん存在している。
  • ハイパーボリア:北極海と北大西洋の間、グリーンランド付近にあったとされる架空の古代大陸。現在は海に沈んでしまっている。
  • ルルイエ:大いなるクトゥルフが眠る都市。南太平洋のどの陸地からも遠い位置に沈んでいる。

その他詳しい解説は他の記事をご覧ください。

書物・人物

クトゥルフ神話の世界観の中では、架空の書物やそれらを書いた架空の人物なども登場します。こちらも多数存在するので、個々の項目については割愛しますが、押さえておきたい有名どころをいくつか紹介します。

  • ネクロノミコン:アブドゥル・アルハザードによって書かれた魔導書。原本はアラビア語で書かれた「アル・アジフ」であり、ギリシャ語に翻訳された際に「ネクロノミコン」へと表題が変わった模様。ミスカトニック大学に数冊の蔵書がある。
  • エイボンの書:ハイパーボリアに暮らしていた大魔導士エイボンによってかかれた本。原本はハイパーボリア語で書かれている。ミスカトニック大学は断片を所蔵している。

上記の2冊は特に有名な書物であるため、実際に再現しようという試みが行われていて、実際に出版もされました。(出版されたのは本物の魔導書ではない事に注意。)

その他詳しい解説は他の記事をご覧ください。

最後に

とても大雑把ではありますが、クトゥルフ神話の基本について解説してきました。どう頑張っても、一つの記事で解説しきれるほど小さな世界観ではないので、この記事をベースに詳しい内容を深堀していただければと思います。クトゥルフ神話そのものについての解説は「クトゥルフ神話の世界」のカテゴリをご参照ください。

クトゥルフ神話TRPGについては、まずは下記の記事をご覧いただき、「クトゥルフ神話TRPG」のカテゴリをご参照ください。

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